実践的なデータ分析に挑むデータサイエンティストのブログ

統計/機械学習/AWSに関する投稿をしていきます

覚醒するAI 〜 Diffusion Models は夢を見るか? 〜

木彫りの仏像.

生成モデルのアーキテクチャである「Diffusion Models」は、2022年7月にStable Diffusionが公開されたことで一気に流行しました。特に、画像生成においては、これまでのGAN(Generative Adversarial Networks)よりも高い品質の画像を生成できることが確認され、注目を浴びました。

Diffusion Modelsによる画像生成の仕組みは非常に刺激的なものでした。ノイズから画像が生まれてくる様子は、私たち人間が行うクリエイティブな作業を再現しているように思えます。私たちは、何かを創造するとき、何らかのアイデアやイメージを脳の中に浮かべます。そして、それを形にするために、何らかの素材を用いて、徐々に形を整えていきます。Diffusion Modelsは、そのようなプロセスを再現しているように思えます。

具体的には、ノイズから時間ステップにわたって少しずつ画像を生成していく様子は、彫刻家が角材から徐々に仏像を彫り出していくようなプロセスに似ています。

Diffusion Modelsと学習

Diffusion ModelsにおけるForwardプロセスとは、画像にノイズをかけることを指します。Reverseプロセスとは、ノイズから画像を生成することを指します。Diffusion Modelsでは、ノイズをかけた画像を元の画像に復元するといった学習を行います。学習したDiffusion Modelsは、ノイズを入力することで多様な画像を生成できるようになります。

Diffusion Modelsの概略図.

Diffusion Modelsの学習プロセスは忘却曲線に似ていると思います。忘却曲線は、学習した情報をどの程度長期間記憶できるかを表したものであり、繰り返し学習することで、情報を長期的に記憶することができる一方、時間とともに徐々に忘れてしまうという曲線を描きます。

Ebbinghaus' forgetting curve and review cycle.*1

Diffusion Modelsを実装したことがある人なら知っていますが、Diffusionの学習プロセスは完全なノイズから画像を復元するのではなく、様々な強弱のノイズをかけた画像から元の画像を復元しています*2。これは、時間とともに過去の情報を忘れていく途中で、元の画像を思い出させて学習をしているように思えませんか。忘れないうちに復習することで記憶を定着させていく忘却曲線に似ているように思えないでしょうか。

Diffusion Modelsの学習の模式図. 様々なノイズレベルの画像を復元するように学習する.

一方、ノイズがかかっていくForwardプロセスは、忘却を表しているように思えます。そう考えると記憶というのは入力された情報を圧縮してデータベースに保存されるのではなく、ネットワークの重みとして保存されるのではないでしょうか。

全ての思考は生成モデルで説明できるか

それでは、全ての思考は生成モデルで説明できるのでしょうか。例えば、昼食に何を食べるかを考えるとき、生成プロセスが起きているのでしょうか。

日常の感覚的には、物事を瞬時に判断する思考と、アイデアを考える時の思考は別物のように感じます。インスピレーションが先に走って、意味を後付しているような感じです。

全ての思考は生成モデルで行われるのではなく、分類やキャプショニング等の別の識別モデル*3と組み合わせているのではないでしょうか。識別モデルによる予測が行われ、その結果を条件にして生成モデルが思考を生成しているのはないでしょうか。

Diffusion Modelsでは、他の情報を用いて条件付けすることで、生成する画像をコントロールすることができます。これをLatent Diffusion Modelsと呼びます。上図では、画像と画像のキャプションの組を使用して学習を行っています。学習したLatent Diffusion Modelsは、ノイズベクトルと条件テキストから画像を生成します。

Latent Diffusion Modelsの概略図.

生成モデルの出力をコントロールするには、条件付のための入力が必要になります。この入力を得るための識別モデルがあると思えないでしょうか。

また、識別と生成を別に学習するのはリソースの使い方としてもったいないように思います。もしかしたら、Latent spaceの埋め込みベクトルをつくるネットワークに、識別モデルのネットワークを流用しているのではないでしょうか*4。ただし、様々なものが写っている画像ではクラス分類のノイズが大きいため、多様なドメインを対象とする場合は識別モデルによる学習の補助はあまりうまくいかないようです*5。むしろ識別モデルを排除できたことが、モデルの規模をスケールできた要因のようです*6。筆者の意見ですが、識別モデルによる学習の補助が上手くいくには分類をより細かく概念的に行う必要があるのではないでしょうか。これは自然言語によるキャプションがうまくいったことと関係あるように思います。

識別モデルと生成モデルの組合わせ.

識別モデルの実装ではクラスはダミー変数ですが、多様な単語への分類だと思えば、これはフロイトの物表象と語表象を結びつけるプロセスと理解できないでしょうか*7

生成しにくいものは何か

Diffusion Modelsは様々なものが生成できることが知られています*8

Summary of all the applications utilizing the diffusion models.

一方で、Diffusion Modelsで離散的な構造を持つデータの生成を研究している方のブログ*9によると、自然言語の大規模な生成はまだうまくいっていないようです。

Diffusion Modelsによる生成プロセスは、全体のおおまかな構造を生成した後、細かい構造を生成します。Diffusion Modelsが成功した理由は、おおまかな構造の生成に重みを配分したためだと考えられています。人間の知覚システムで認識するアナログな信号では、低周波が持っている情報量が多く、高周波をあまり気にしないからです。角材から仏像を掘るときも、大まかな形を彫った後に細部を彫り込んでいきますね?

ノイズと特徴のスケール. 画像の左の方ではノイズが強くなり細かい画素が整合的でないものの, 山であることや概形は認識できる.

Diffusion Modelsでは全体の構造を決定した後、細部を生成していきます。これは人間の知覚システムのようなアナログで連続的なものには適しているように思えます。

では自然言語ではどうでしょうか。自然言語の「低周波」は文脈に相当し、「高周波」は単語の選定に相当します*10

筆者の意見ですが、Diffusion Modelsの推論には適していないように思えます。自然言語の場合、同じ文脈を表す単語の組み合わせは自然には定まりません。文章中の単語で、入れ替えても意味が変わらない単語への置換は文脈的には連続ですが、単語の埋め込みベクトル空間では近いとは限りません。「高周波」が離散的であることが影響しているわけです。また、画像生成の場合、「低周波」も「高周波」も同じキャンバスへ出力されますが、自然言語の場合、文脈そのものは出力文章に現れず、「高周波」のみが出力されます。文章が生成されるには「低周波」から「高周波」を一気に生成する必要があるように思えます。Diffusion Modelsの推論には適していないように思えます。

ChatGPTのような大規模で成功しているモデルは、連続的な埋め込みベクトルを単語という離散的なものに変換するために分類器を使用しています。離散空間への変換プロセスがある分だけ、言語*11は画像や音声等と比較して高級なものなのではないでしょうか。これについてはまた別の記事で考察を述べたいと思います。

AIは夢を見るか

Diffusion Modelsによる画像生成は夢と似ていると思います。一説では、夢は過去の経験や記憶が脳内で処理され、記憶を整理するプロセスだと考えられています*12。夢を見る際には、過去の記憶を引き出した内容が夢に現れると考えられています。

眠っている間は意識が閉じ、外部からの入力が無いわけですから、夢の元となるのは記憶と脳のランダムな信号ノイズだと考えられます。これはまさにDiffusionのReverseプロセスではないでしょうか。

また、夢の特徴として、夢は現実には起こり得ないシチュエーションを作り出すことがあります。様々な画像を学習させたDiffusion Modelsも、ランダムな初期値を与えるといくつかの状況が混ざった、現実には存在しないような画像を出力します。非現実的な画像を生成するという点で、夢とDiffusion Modelsは共通しています。

ここで、「AIは夢を見るか?」という問いに戻るのですが、むしろAIは常に夢を見ているのではないでしょうか。外部からの刺激を受けることで、夢から醒め、理性を取り戻し、現実に即した画像を生成する。このように思えるのです。

まとめ

以上、Diffusion Modelsによる画像生成の仕組みと、それが人間の創造性や記憶のプロセスに似ていることについて説明しました。また、Diffusion Modelsと夢に共通していることについても触れました。

AIの発展によって、クリエイティブな活動や知的な作業がますます効率化されることが期待されます。しかし、AIが人間と同じように感情や意識を持つかどうか、という問題はまだ解決されていません。

生成モデルは、現実に存在するデータを元に作り出されますが、そのプロセスは非常に興味深く、人間の創造のプロセスと類似している点も多くあると考えます。これらのプロセスの考察を反映した新たなAIモデルや、人文系のAIに対する考察が進むことを期待するところです。

フロイトによれば、夢は無意識の欲望を反映しているようですが、Diffusion Modelsは今のところ皆さんの意識的欲望によって画像を生成しているようですね。

... お後がよろしいようで。

*1:Chun, Bo Ae & hae ja, Heo. (2018). The effect of flipped learning on academic performance as an innovative method for overcoming ebbinghaus' forgetting curve. 56-60. 10.1145/3178158.3178206.

*2:さらに正確には、元の画像を推論するのではなく、元の画像にかけたノイズを予測します。

*3:データがあるクラスに分類される確率を出力するモデルのこと。生成モデルは入力データの分布のモデリングまで行う。そのため生成モデルからは新たなデータを生成(サンプリング)することができる。

*4:拡散過程は不要ではないかと思いましたが、拡散過程が無いとただの変分オートエンコーダーになってしまいますね。

*5:Dieleman, Sander, "Guidance: a cheat code for diffusion models", https://benanne.github.io/2022/05/26/guidance.html, 2022.

*6:Dieleman, Sander, "Diffusion language models", https://sander.ai/2023/01/09/diffusion-language.html, 2023

*7:知ったかでフロイトのこと書いてるので、詳しい人は教えて下さい。

*8:Ling Yang and Zhilong Zhang and Yang Song and Shenda Hong and Runsheng Xu and Yue Zhao and Wentao Zhang and Bin Cui and Ming-Hsuan Yang, "Diffusion Models: A Comprehensive Survey of Methods and Applications", https://arxiv.org/abs/2209.00796.

*9:Dieleman, Sander, "Diffusion language models", https://sander.ai/2023/01/09/diffusion-language.html, 2023.

*10:画像と異なり自然言語フーリエ変換できないので周波は定義できない。したがってここでは括弧付きの「低周波」および「高周波」という用語を用いることにする。

*11:言語学記号学と結びつけられるとかっこいいのですが。

*12:Winson, J., "Brain and Psyche : The Biology of the Unconscious", New York : Anchor Press/Doubleday, 1985.

プライバシーポリシー

当サイトに掲載されている広告について

当サイトでは、第三者配信の広告サービス(Amazonアソシエイト)を利用しています。

当サイトが使用しているアクセス解析ツールについて

当サイトでは、Googleによるアクセス解析ツール「Googleアナリティクス」を利用しています。 このGoogleアナリティクスはトラフィックデータの収集のためにCookieを使用しています。 このトラフィックデータは匿名で収集されており、個人を特定するものではありません。

この機能はCookieを無効にすることで収集を拒否することが出来ますので、お使いのブラウザの設定をご確認ください。 この規約に関して、詳しくはこちら、またはこちらをクリックしてください。

当サイトへのコメントについて

当サイトでは、スパム・荒らしへの対応として、コメントの際に使用されたIPアドレスを記録しています。

これはブログの標準機能としてサポートされている機能で、スパム・荒らしへの対応以外にこのIPアドレスを使用することはありません。

また、メールアドレスとURLの入力に関しては、任意となっております。

加えて、次の各号に掲げる内容を含むコメントは管理人の裁量によって、削除する事があります。

  • 特定の自然人または法人を誹謗し、中傷するもの。
  • 極度にわいせつな内容を含むもの。
  • 禁制品の取引に関するものや、他者を害する行為の依頼など、法律によって禁止されている物品、行為の依頼や斡旋などに関するもの。
  • その他、公序良俗に反し、または管理人によって承認すべきでないと認められるもの。

免責事項

当サイトで掲載している画像の著作権・肖像権等は各権利所有者に帰属致します。権利を侵害する目的ではございません。記事の内容や掲載画像等に問題がございましたら、各権利所有者様本人が直接メールでご連絡下さい。確認後、対応させて頂きます。

当サイトからリンクやバナーなどによって他のサイトに移動された場合、移動先サイトで提供される情報、サービス等について一切の責任を負いません。

当サイトのコンテンツ・情報につきまして、可能な限り正確な情報を掲載するよう努めておりますが、誤情報が入り込んだり、情報が古くなっていることもございます。

当サイトに掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

プライバシーポリシーの変更について

当サイトは、個人情報に関して適用される日本の法令を遵守するとともに、本ポリシーの内容を適宜見直しその改善に努めます。

修正された最新のプライバシーポリシーは常に本ページにて開示されます。

管理人:abetan

マーケティング手法間の連携について

概要

マーケティングにはいくつかのフレームワークがありますが、それぞれのフレームワークを連携させる方法について疑問に思う点がありました。疑問点とその解決法について書きたいと思います。

背景

最近、社内のマーケティング研修に参加しました。下記の図のようにフレームワークを連携させて分析を進めていく手法を学んだのですが、連携する際に不明瞭な点があり、うまく使いこなせませんでした。使い方について講師に質問しても、「マーケティングは理論だけじゃなくて情熱も必要だから!」という非論理的な回答をされてしまいました。

そこで、フレームワークの連携について改めて自分で整理し、フレームワーク間の連携と、ちょっとしたコツについてまとめました。個々のフレームワークの詳細は割愛します。

リコーさんのWebサイトに分かりやすい図がありましたので、こちらの図に沿ってまとめたいと思います。

分析の流れ

drm.ricoh.jp

フレームワークの流れ

研修ではPEST → 5F → 3C → SWOT/クロスSWOT → STP → 4Pの順で分析を行いました。PEST/5F/3Cで事実を確認し、SWOTでそれらの分析をまとめました。その後、STPでターゲットを決め、4Pでプロダクトを考えました。一つ一つの手法についてはよくわかったのですが、これらを連携させるのが難しかったので、連携させるときのポイントを整理していきたいと思います。

PEST

PESTではマクロ環境分析を行います。自社のプロダクトの市場に影響を与えるマクロな要因を政治(法規制や政治的動き)/経済/社会(人口動態や習慣)/技術の観点で整理します。

「トレンド」欄にはマクロ環境の客観的事実を記載します。それぞれの事実が市場に与える影響についての評価を「市場に与える影響」に記載します。

  • このとき、影響がプラスなのかマイナスなのか切り分けます。切り分けにくいと感じたら、その事実の抽象度が高い可能性があるので、事実をさらに細かい要素に分解します。
  • 市場に与える影響を考えにくい場合は、その市場の売り上げ構造について振り返ってみるとよいです。おおむね(価格)×(個数)×(満足度)の観点で考えればよいと思います。価格であれば、材料の原価、人件費、配送費、ブランド、コモデティ化などが考えられます。個数であれば需要、シェア、生産力、販売チャネル、購入サイクル、代替品の登場、法規制などが考えられます。満足度については品質や納期などがあります。

難点は、マクロ要因が市場に与える影響の確からしさがわからないということです。例えば、「政治状況が良いから市場が拡大する」と思っても、因果関係を証明するのはまず無理です。したがって、PEST分析は大きな流れを見て、これから検討する戦略の筋が悪いかどうかを判断するための制限のようにとらえると良いと思います。日本はどんどん人口が減っていくのにたくさん売ってなんぼの商品は筋が悪い、といった具合です。

5F

5Fは業界構造の現状を分析する手法です。既存企業の状況、川上川下の交渉力の強さ、参入障壁や代替製品について整理し、収益性を判断します。ここで、収益性とは製品の粗利です。5Fは事実ベースで調査が可能なのでやりやすいと思います。

5Fの関係

drm.ricoh.jp

難点は、それぞれの状況が自社にとって有利か不利か判断するのに主観が入るという点です。例えば、一般に自社製品の部品製造業者が少ない場合は、部品製造業者の交渉力が強く不利と判断します。ですが何社くらいから少ないといえるでしょうか?この辺の判断は業界に関係する企業について深い知識が必要なので、経験値によっては判断が異なる場合があります。

3C

3Cは、顧客、競合、自社の三つを分析します。どんな顧客がいて、どんなニーズを持っているのか、競合はニーズに対してどのように対応しているか、それを受けて自社はどのように強みを活かす(差別化する)か、弱みは何か、を整理し、 重要成功要因(KSF)を見つけ出します。

  • 最も重要なのは顧客の分析で、ここが全ての土台となります。セグメンテーションは後程行うので、この段階では業界の顧客全体を想定し、様々なニーズ、市場規模とその変化を整理します。
  • ニーズに対して競合企業がどのように対応しているか、具体的には価格/種類/品質/ブランディングなどリソースと仕組みを調査します。このとき、競合の動向を具体的に調査するのですが、その内容を抽象化して競合がどのような「価値」を訴求しているのかに焦点を置きます。なぜかというと、具体論に入りすぎると、自社について考える際に具体論になってしまい、事実確認フェーズなのに解決法に思考が向いてしまうからです。
  • 顧客と競合の状況が整理できたら、それらを比較参考にして自社はどのように対応できているか整理します。そして他社との差別化ができそうな方向性を抽出し、KSFとします。ここで、検討するのはあくまで方向性で、具体的な方法は考えません。

3Cの関係

以上、3つの手法で次のことを行いました。

  • PEST: 市場に影響を与えるマクロ要因を整理する
  • 5F: 業界の収益性を整理する
  • 3C: 重要成功要因(KSF)を見つけ出す

SWOT(クロスSWOT

SWOTでは内部環境の「強み」と「弱み」、外部環境による「機会」と「脅威」を整理します。内部環境とは自分たちで制御可能なもの、外部環境とは自分たちで制御できないものを指します。 PEST/5F/3Cをすでに行っているので、これらをマッピングすることですぐにSWOTを作成できます。

  • 強み: 3Cの自社の強み(差別化できる要素)
  • 弱み: 3Cの自社の弱み(競合より劣る要素)
  • 機会/脅威: PESTおよび5Fから導かれる業界の動向や市場規およびその変化、3Cおよび5Fから導かれる顧客のトレンド/ニーズや業界構造の問題

作成したSWOTからクロスSWOTを行います。SWとOTを掛け合わせて自社がとるべき方向性を整理します。

クロスSWOT

  • 要素を掛け合わせると、ついつい解決策まで考えがおよびますが、具体論は考えず、方向性にとどめます。着目する業界の動向と活かすべき強み、克服すべき弱みを羅列するくらいでいいと思います。
  • いくつかの掛け合わせを検討した後、実際に実施すべき方向性をいくつか採用します

STP

SWOTで採用した方向性をもとに、セグメンテーション/ターゲッティング/ポジショニングを進めます。 SWOTの方向性を決める際に着目した顧客のニーズがあると思いますので、そのニーズを持つ顧客の属性を整理します。整理する観点は引用します。

  • 「地理的変数」・・・国や地域、都市の規模、発展度、人口、気候、文化・生活習慣、宗教など
  • 「人口統計的変数」・・・年齢、性別、職業、所得や学歴、家族構成など
  • 心理的変数」・・・価値観、趣味嗜好、ライフスタイルなど
  • 「行動変数」・・・購買状況や購買パターン、使用頻度といった製品に対する買い手の知識・態度・反応など

drm.ricoh.jp

職業/性別/性格...などセグメンテーションする属性を決めたら、そのうち現実に存在する組み合わせのパターンを考えます。例えばバリキャリ、女性、アウトドア志向.../事務職、女性、サブカル系...のような感じです。ある程度パターンが出来たら、実際にその人物が実在しているかのような、リアリティが出るレベルまで緻密化します。このユーザー像のことをペルソナといいます。例えば、コンサル業、女性、30歳、趣味はサーフィンとスノボ、年下彼氏、港区在住、タワマン住み、車はアウディ、食事は常に外食...のような感じです。

  • ペルソナを考える際、「平均的な人」を考えてはいけません。メーカー勤め、男性、40歳、趣味は映画...といった具合の平凡な設定はイメージしやすいものの、特化する部分がないので、商品戦略を考える際に商品も特徴的なものになりにくくなってしまいます。イノベーター理論によると、最初に商品が売れるのはイノベーターやアーリーアダプターです。これらの人々に商品が浸透すると、マジョリティが商品の価値を理解して買ってくれるようになります。したがって最初に商品を届けるイノベーターやアーリーアダプターはマジョリティにとってのモデルケースとなるような「イカした」人物であることが求められます。取り組みやすいのは、世間ですでに浸透しているレッテル(ITオタクや草食男子など)を利用するか、有名人で例えることです。
  • また、本質的には平均的な人間なんていないことに注意しましょう。各人それぞれ独特のこだわりを持っているものです。しかし、いざペルソナを作ろうとすると平均化してしまいがちなので、注意しましょう。
  • ペルソナが出来たら、ニーズを緻密化します。リアリティに基づいた、より詳細なニーズの深堀を行います。そして、各ペルソナにとって商品購入の決め手が何かを抽出します。この決め手を重要購買決定要因(KBF)といいます。このとき、SWOTで想定したニーズに合わないペルソナはターゲティング候補から外します。

次にターゲティングを行います。それぞれのペルソナと似た集団をセグメントと考え、そのセグメントの市場の規模、競合の参入状況、自社の強みを活かせるか評価します。

セグメント分析

総合的に判断して、ターゲットとするセグメントを確定します。

最後にポジショニングを行います。ターゲティングで決めたセグメントのペルソナのKBFを軸にとって、自社と競合をマッピングして差別化できているか確認します。

drm.ricoh.jp

  • 差別化できていない場合は3Cの自社の強み分析が足りない可能性があります。もう一度3Cに戻って検討し直します。
  • 自社や競合が斜め一直線に並ぶ場合は、KBFの軸どうしに相関がある可能性があります。例えば、価格と機能などです。高機能ほど高価格になるのは当たり前なので、これだと役に立つ分析とは言えません。KBFの軸に取るのは、○○が高いor低いではなく、例えば高級さ⇔手軽さのように、軸の両端に価値があるようにしたほうが良いです。対立概念をしっかり考えましょう。
  • KBFはあくまでも「価値」です。具体的な機能があるorない、とならないようにします。

4P

ここまででニーズとターゲットセグメントが決定しました。これを受けて、ニーズを満たす商品を考えます。

  • KBFを支える機能やデザインを持つプロダクト、付随機能/サービスを提供する。
  • 利益が出るプライスの設定をする。規模と価格のバランスをとる。
  • ターゲットとする顧客まで届くための販売プレイスを用意する。
  • イノベーター/アーリーアダプター/マジョリティで分けたプロモーションを行う。

この4Pを考える上でも、顧客のニーズが中心だということに気を付けます。なるべく製品開発側の都合を排除し、あくまで顧客が必要な機能か、需要がある価格か、販売プレイスを利用できるか、どれくらい関心があるか、で判断します。

drm.ricoh.jp

以上でマーケティングによるプロダクト企画ができました。

【イベント】データサイエンス アップデートレクチャー #3 逆強化学習

今日は「データサイエンス アップデートレクチャー #3 逆強化学習」に参加してきました。

techplay.jp

 

強化学習をテーマとした研究発表を聞きました。逆強化学習は、観測した時系列データから報酬を求める逆問題です。

講演された京都大学生命研究科の本田さんは生物学者で、機械学習も使用して生命現象の解明に取り組んでいるようです。ミクロな現象からどのようにして知性が生まれるのか、という興味から研究をしているそうです。

ミクロな現象とマクロな現象がどのようにつながるのかというのは物理学でも大きな研究対象なので、この点で親近感がわきました。

 

  • プレスリリース

www.kyoto-u.ac.jp

 

  • 論文 

http://journals.plos.org/ploscompbiol/article/file?id=10.1371/journal.pcbi.1006122&type=printable

 

もらったシール。

f:id:ground0state:20180829002909j:plain

 

等価原理の数学的意味

アインシュタイン相対性理論に要請した原理として等価原理がある。等価原理は例えば内山の教科書に次のように解説してある。

重力内の任意の任意の点をとりかこむ無限小の4次元領域を考えるとき、そこに特別な座標系を求め、これを基準にとるとき、この無限小領域内が無重力地帯となるようにすることが必ずできる。これを等価原理(principle of equivalence)という。

引用元:内山 龍雄 (2011年,第25刷)『相対性理論 (物理テキストシリーズ 8)』岩波書店 p.116-117

これを幾何学的に述べると次のようになる。

幾何学では、或る座標系を採るとき、1点Pにおける\Gammaがすべて0になる場合、この座標系はPにおいて測地的(geodesic)であるという。また、この座標系をPにおける測地座標系、あるいは測地系(system of geodesic coordinate)という。したがって等価原理幾何学的に言えば、任意の世界点で測地系を設けることが必ずできるということになる。

引用元:内山 龍雄 (2011年,第25刷)『相対性理論 (物理テキストシリーズ 8)』岩波書店 p.146-147

 \Gammaはレヴィ・チヴィタ接続のことで、「1点Pにおける\Gammaがすべて0になる」とは、接続 \Gamma^\lambda_{\mu\nu}のすべての成分が点Pでゼロになることをいう。


\begin{align}
\Gamma^\lambda_{\mu \nu}(P)=0 
\end{align}

さて、では具体的にどのようにすれば点Pにおいて \Gamma0にできるか。これについてはEMANさんのサイトに解説記事がある。

eman-physics.net

今、座標が(x, g)で張られているとする。点Pの座標を c^\muとする。座標 (x, g)から (x', g')への座標変換でレヴィ・チヴィタ接続は次のように変換される。 


\begin{align}
\Gamma_{\mu\nu}^{\lambda} = \frac{\partial x'^\alpha}{\partial x^\mu} \frac{\partial x'^\beta}{\partial x^\nu} \frac{\partial x^\lambda}{\partial x'^\gamma} \Gamma'^{\gamma}_{\alpha\beta} + \frac{\partial x^\lambda}{\partial x'^\rho} \frac{\partial^2 x'^\rho}{\partial x^\mu \partial x^\nu}  
\end{align}

これに次の座標変換を施すと、 \Gamma'は点P0になる。


\begin{align}
x'^\mu = x^\mu + \frac{1}{2}\Gamma^\mu_{\alpha \beta}(P) (x-c)^\alpha (x-c)^\beta
\end{align}

これで点P無重力にすることができた。

さらに線形変換 x''^\mu = a^\mu_\nu x'^\nuを施した \Gamma''も点P0になる。これを利用して計量を変換しよう。 x'^\mu = (a^{-1})^\mu_{\nu} x'^\nu=b^\mu_{\nu} x''^\nuと書き直すと計量は次のように変換される。


\begin{align}
g''_{\mu\nu} = \frac{\partial x^\alpha}{\partial x'^\mu} \frac{\partial x^\beta}{\partial x'^\nu} g'_{\alpha\beta} = b^\alpha_{\mu}b^\beta_{\nu}g'_{\alpha\beta} = (B^{\top}G B)_{\mu\nu}
\end{align}

 ここで計量とテンソル bを行列とみなして表した。成分の対応は次のようになる。


\begin{align} 
G_{ij} &= g_{ij} \\
B_{ij} &= b^i_{j} 
\end{align}

 点Pでの値を考える。 G(P)は対称行列なので直交行列 Rで対角化できる。


\begin{align}
R^{\top} G(P) R = \Lambda 
\end{align}

ここで  \Lambda = \mathrm{diag}(- \lambda_0, \lambda_1, \lambda_2, \lambda_3)である。

さらに C=\mathrm{diag}(\lambda_0^{-1/2}, \lambda_1^{-1/2}, \lambda_2^{-1/2}, \lambda_3^{-1/2})を用いて単位行列に変換できる。


\begin{align}
C^{\top} R^{\top} G(P) R C =\mathrm{diag}(-1, 1, 1, 1) 
\end{align}

よって B=RCとすれば計量 g''は点P \mathrm{diag}(-1, 1, 1, 1)となる。

以上の結果より、座標変換で点 P g=\mathrm{diag}(-1, 1, 1, 1), \Gamma_{\mu \nu}^\lambda=0とできる。

また、正規座標における計量のテイラー展開*1も同じことを表している。


 \begin{align}
g_{\mu\nu} =\mathrm{diag}(-1, 1, 1, 1)_{\mu\nu}-\frac{1}{3}R_{\mu\alpha\nu\beta}x^\alpha x^\beta +\mathcal O (x^3) 
\end{align}

さて、話題を変えよう。

リーマン幾何学での等価原理の数学的意味を見てきたわけだが、そもそもリーマン幾何学のどの時点で等価原理が導入されたのか考えてみる。

リーマン多様体の条件は2つあった。

計量条件: \nabla_\rho g_{\mu\nu}=0

捩率なし: \Gamma_{\mu\nu}^\lambda = \Gamma_{\nu\mu}^\lambda

一つ目の条件は

ベクトルの大きさは平行移動に対して不変である

引用元:内山 龍雄 (2011年,第25刷)『相対性理論 (物理テキストシリーズ 8)』岩波書店 p.144

 を表している。これはベクトルを平行移動したときに、ベクトルの大きさが時空の曲がりの効果以外で、変化しないことを要請している。これは物理を記述する上でもっともらしいと言えるだろう。

接続に関係する二つ目の条件を確認してみよう。リーマン多様体であることは仮定しないでおき、多様体に計量 gと線形接続 \Omegaを導入する。共変微分は次のように定義される。


\begin{align}
\nabla_\mu V^\nu= \partial_\mu V^\nu - \Omega^\nu_{\mu \lambda}V^\lambda
\end{align}

座標が (x,g)で張られているとする。座標 (x, g)から (x', g')への座標変換で接続は次のように変換される。 


\begin{align}
\Omega_{\mu\nu}^{\lambda} = \frac{\partial x'^\alpha}{\partial x^\mu} \frac{\partial x'^\beta}{\partial x^\nu} \frac{\partial x^\lambda}{\partial x'^\gamma} \Omega'^{\gamma}_{\alpha\beta} + \frac{\partial x^\lambda}{\partial x'^\rho} \frac{\partial^2 x'^\rho}{\partial x^\mu \partial x^\nu}  
\end{align}

 等価原理が成り立つか、次の座標変換をしてみよう。


\begin{align}
x'^\mu = x^\mu + \frac{1}{2}\Omega^\mu_{\alpha \beta}(P) (x-c)^\alpha (x-c)^\beta
\end{align} 

 すると点Pで次の式が成り立つ。


\begin{align}
\Omega_{\mu\nu}^{\lambda} (P) = \Omega'^{\lambda} _{\mu\nu}(P)  + \Omega_{(\mu\nu)}^{\lambda} (P)
\end{align} 

接続の反対称成分が残ってしまった。


\begin{align}
\Omega'^{\lambda} _{\mu\nu}(P) = \Omega_{[\mu\nu]}^{\lambda} (P)
\end{align}

 さらに座標変換してこの成分をゼロにできるだろうか?

座標変換での接続の変換を考えると、接続の反対称成分は次の変換をする。


\begin{align}
\Omega_{[\mu\nu]}^{\lambda} = \frac{\partial x'^\alpha}{\partial x^\mu} \frac{\partial x'^\beta}{\partial x^\nu} \frac{\partial x^\lambda}{\partial x'^\gamma} \Omega'^{\gamma}_{[\alpha\beta]} 
\end{align}

 これはテンソルの変換になっている。したがって、接続の反対称成分はテンソルである。

 \Omegaが計量条件を満たすとして、接続を分解する。


\begin{align}
\Omega_{(\mu\nu)}^{\lambda} &=\Gamma_{\mu\nu}^{\lambda} \\
\Omega_{[\mu\nu]}^{\lambda} &=T_{\mu\nu}^{\lambda}
\end{align}

 Tを捩率という。捩率はテンソルなので、座標変換で 0にできない。したがって、等価原理が成り立つためには捩率が全時空で 0になることが必要である。

また、全時空で T_{\mu\nu}^{\lambda}=0が成り立つとき、


\begin{align}
\Gamma_{ [ \mu \nu ]}^\lambda
\end{align}

はレヴィ・チヴィタ接続になる。


\begin{align}
\Gamma_{\mu\nu}^{\lambda}=\frac{1}{2}g^{\lambda \rho}(\partial_\mu g_{\rho \nu} +\partial_\nu g_{\rho \mu} -\partial_\rho g_{\mu \nu})
\end{align}

以上の考察より、等価原理が成り立つためには、


\Omega_{[\mu\nu]}^{\lambda} =0

が必要十分であることがわかった。

よってリーマン多様体の条件のうち、一つ目は物理量が外力を受けない限り、影響を受けるのは時空の曲がりのみであることを要請し、二つ目は等価原理を要請している。 

*1:酒井 隆(1992)『リーマン幾何学裳華房