法人向けAIサービスの導入効果とは何なのか

はじめに

AIを使った法人向けサービスの企画をする機会があったのですが、企画検討を進めていくうちに、

  • AIを使うと何が嬉しいんだっけ?
  • AIの導入効果とは何か?

と、ドツボにハマってしまったことがありました。 この記事では今一度、AIの導入効果についてまとめ直し、AI導入の際にスムーズに検討が進むようにしたいと思います。

前提

  • 法人向けAIサービスに限定します。書いてて気づいたのですが、BtoCだとこの記事は当てはまらなさそうです。
  • 記事の性質上、新情報を継ぎ足して完成度を上げていくつもりです。
  • AIを考える上で無視できないのがロボットです。画像認識や音声認識がinputのI/Fとすると、ロボットはoutputのI/Fです。本記事では、データ処理をするソフトの部分に注目し、ロボットについては考察を割愛します。

参考

そもそもAIとは?

そもそも私たちがAIと呼んでいるものは何でしょうか。これについては、MLSE-Q&Aに良い回答が存在します。 これは、2018年5月17日に行われたMLSEキックオフシンポジウムのパネルディスカッションでの質問とシンポジウム終了後の参加者アンケートから抽出・再構成されたQ&Aなのですが、「Q. 人工知能、AIという言葉を使わないのはなぜですか? この研究会では現在よく世間で問われている『AIをいかに業務で使いこなすか?』という問いに対し、対象を機械学習に限定しているだけのように見えます。」という質問に対する回答で、下記に引用します。

これまで「AI」という用語はその時代時代で別個の技術を指していました。初期のAI研究では論理プログラムや探索アルゴリズム、1980年代の第2次AIブームではルールベースのエキスパートシステムなどが「AI」と称されました。現在の第3次AIブームで、これに相当するのがディープラーニングを含めた統計的機械学習です。 (中略) またAIの宿命として、技術が成熟?すると、その技術は世間ではAIとは呼ばれなくなります。機械学習も遠くない将来、AIとは呼ばれなくなると予想されます。しかし,その場合でも機械学習自体は重要なシステム開発技術の一つとして残るでしょう。

このことから、「AI」が指すものは時代とともに移り変わるため、AIを厳密に定義しようとすることに意味がないことがわかります。「AI」はバズワードで、その時々の社会の流れから帰納的に定義される、つまり私たちは「AI」が過去のものになって初めて「AI」に対する共通的な認識を獲得します。 第3次AIブーム1が始まってからしばらく経過し、現在の社会においてAIとして認知されているものの正体がはっきりしてきました。インテリジェント化が加速する ICT の未来像に関する研究会報告書2015によると、AIはこれまで考えられてきたものと合わせて下記の4つのカテゴリーに分類されます。

  • カテゴリー1:単なる制御(言われた通りにやる)

    • 温度が上がるとスイッチを入れる。下がるとスイッチを切る。
    • 洗濯物の重さで洗い時間を調整。
  • カテゴリー2:対応のパターンが非常に多い(探索や知識を使って、言われた通りにやる)

    • 探索や推論。将棋や囲碁で、決められたルールにしたがって、手を探す。
    • 知識。例えば、与えられた知識ベースを使い、検査の結果から診断内容や処方する薬を出力する。
  • カテゴリー3:対応のパターンを自動的に学習(重みを学習する)

    • 機械学習
    • 駒がこういう場所にあるときは、こう打てばよいということを学習。
    • この病気とこの病気はこういう相関があるということを学習。
  • カテゴリー4:対応のパターンの学習に使う「特徴量自体」も学習(変数も学習する) -(特徴)表現学習。ディープラーニングはこの一種

    • 駒の位置だけでなく、複数の駒の関係性をみたほうがいい。
    • こういった一連の症状が、患者の血糖異常を表し、複数の病気の原因になっているようだ。 (カテゴリー4は人間の認知機能を機械上に実現しようとするものであることから、「コグニティブ・コンピューティング」(認知的なコンピュータ計算)と呼ばれることがある。)

本記事では、AIをいずれかのカテゴリに特定することはせず、現在AI技術として括られている要素技術を列挙して、それぞれについてビジネスの応用例を見ていくことにします。

AI技術とAIの導入効果

現在のビジネス界で「AI」として認識されていると思われるAIの要素技術を分類すると下記のようになると思います。

これらの要素技術がどのようにして効果に結びつくのでしょうか。

ITシステムの導入効果

AIやデータサイエンスと言うと格好いいのですが、現場に投入される段階になると結局はITシステムの一部となります。ですので、ITシステムの導入効果を振り返ってみることにします。 ITシステムの導入効果については、事例広告ブログ by 村中明彦というブログにて良くまとまっていました。このブログによると、ITシステムの導入効果は次の3つに集約されます。

  1. 効率化・コスト削減
  2. 属人化の低減
  3. 基盤の確立

それぞれの意味は下記に引用します。

効率化とは、「今までもがんばればできていたが、IT製品を導入して、今はもっとラクに、よりよくできるようになった」ということです。コスト削減とは、「今までもできてはいたが、お金がかかっていた。しかしIT製品を導入したので、かかるお金が減った」ということです。抽象的には、効率化とは「単位投入労力あたりの成果量が増えること」であり、コスト削減とは、「単位成果あたりの投入資源量が減ること」です。 次に属人化の低減とは、「以前はある人ならできていたが、別の人にはできなかった。しかし、ITツールを導入したので、誰でもできるようになった」ということです。 (中略) つまり、基盤の確立とは、「将来、何らかの良い状態を実現させるための、前段階の基礎固め」です。 (中略) 社内業務に、「不可能」はありません。ERPがなくても、財務諸表は作れますし、SFAがなくても営業はできますし、CRMがなくてもマーケティングはできますし、ビデオ会議がなくても出張すれば遠くの人には会えます。青色LEDがない以上、LED信号灯は作れないっていうような不可能はないですよ。 つまり、昔でも何とかできてた。それがIT製品の導入で、よりよく、よりラクにできるようになった、ということです。

ITシステムは社内業務を効率化するものであり、青色LEDや重機などとは違って「できない」を「できる」に変えるものではないと論じています。「人でも出来る」を「機械でもっと~に出来る」に変えるものだということです。

ついでに、システムエンジニアならば誰もが読んだことのある(?)ラノベなれる!SE16 2年目でわかる?SE入門のあとがきにて、次のような一文があります。

ITの本質は自動化です。日常のちょっとした不便をプログラムで解消する。全てのモチベーションはそこが起点です。

以上から、ITシステムの本質は自動化であり、今までのIT技術「できない」を「できる」に変えるものではなく、「人でも出来る」を「機械でもっと~に出来る」ようにするという効果を持っていました。これはAIシステムでも変わらない効果です。

AIシステムの導入効果

では、AIによって「できない」を「できる」ようにした新しい導入効果はあるのでしょうか。 人工知能システムのプロジェクトがわかる本 企画・開発から運用・保守までという書籍に、AIシステムの最終的な目的の代表例として下記の4つが挙げられていました。

  • 売上向上
  • コストダウン
  • 品質向上
  • リスク低減

書籍中ではテーマパークを例にして、それぞれの例を示しています。

  • 売上向上の例……顧客ごとにアトラクションやグッズのおすすめを提示して、顧客の単価を上げる(購買予測)
  • コストダウンの例……グッズショップの在庫管理と追加発注を自動化して、店員の作業時間を 減らす(売上予測)
  • 品質向上の例……顧客がいつでも問い合わせできるチャットサービスを用意することで、顧客満足度を上げる(質問応答)
  • リスク低減の例……パーク内でのトラブルをいち早く検知し、トラブルの悪影響を減らす(トラブル検知)

AIによって検知や予測といった新しいことが出来るようになりましたが、例を見るとわかるように、元々人手で出来ていたことを代わりにAIが代行しているだけです。つまり、AIもまた「できない」を「できる」に変えるものではなく、今までのITシステム同様に「人でも出来る」を「機械でもっと~に出来る」ようにするだけだということがわかります。

それでもAIのおかげで今まで解けなかった課題にも対処できるようになりました。ITシステムの導入効果は変わりませんが、解決できる課題の種類が増えたという見方が正しいのでしょう。すなわち、AIの登場によってビジョンやKGIは変わらないけど、KPIを達成する手段が豊富になったということです。

ここまでをまとめると、AIシステムの導入効果は下記のようになります。基盤の確立はAIシステムの目的でないと思われるので除外しました。

  • コスト削減
  • (お金を払っても賄えない)時間削減
  • 属人化低減
  • 品質向上
  • リスク低減
  • 売上向上

と、まとめたのですが、実はAIシステムにできそうなことがもう一つあります。それは「大容量データから有効なビジネスパターンを発見する」ことです。これについては次々章で考えてみたいと思います。

AI活用事例

以上の導入効果と要素技術を結びつけ、どのような活用事例があるか調べてみました。 ただし、『』内の分類については、私が各事例から推測して当てはめていますので正しいかはわかりません。分類は(分類/回帰/クラスター分析/主成分分析/強化学習/探索や推論/最適化アルゴリズム)のどれかです。

※随時増やしていきます

AIで何かできないか考えるときに、効果×技術は参考になると思います。

仮説構築の手法としてのAI活用

現在はデータサイエンスという言葉に含められてしまっていますが、少し前はデータマイニングと呼ばれるものが流行っていたように記憶しています。マーケターのためのデータマイニング講座:第1章 CRMとデータマイニングの必要性 (2/2)にてデータマイニングの意味が考察されています。

 データマイニングの定義はこれまで多数紹介されていますが、多少表現の違いはあってもほとんどが「大容量データから有効なビジネスパターンを発見する」といった意味合いのもので、「大容量データ」と「発見」というキーワードが共通しているように見受けられます。

データマイニングは回帰や分類とは異なり、変数間の構造や関係性を分析し、新たな仮説の発見を目的としています。

もともと物理学や化学などでは、物質のミクロな構造や組成から、変数間に存在する相関および因果関係についての仮説を構築し、力学的なモデルでそれらを説明してきました。社会科学においても心理や経済における変数間の相関などをモデルに落として説明しようとしてきました。

そして、大容量データをハンドリングできるようになった現在では、ビジネスにおいても有用なパターンやルールを抽出することができるようになりつつあります。ただし、データマイニングと上記の統計手法は意味合いが異なります。統計解析手法とデータマイニングの違いはマーケターのためのデータマイニング講座:第1章 CRMとデータマイニングの必要性 (2/2)に解説があります。

 データマイニングという概念が紹介される以前は、データ分析といえば統計解析手法を用いたものでした。データマイニングと統計が厳密に異なるものかどうかは専門家の議論にゆだねるとして、実務的な解釈では、統計が仮説検証のための手法であるのに対し、データマイニングは仮説構築の手法とされています。

 これが「発見型」といわれるゆえんで、例えば「学歴が高い人は低い人より給与が高い」という仮説を立て、それが本当かどうかを検証するのが統計的アプローチなら、給与額に影響を与える要因を、何の偏見も持たずに白紙の状態から見つけ出すのがデータマイニングといえるでしょう。有名な「ビールと紙オムツ」の併買傾向は、仮説としては極めて想起しにくい組み合わせですので、統計ではなくデータマイニングを行うことで初めて発見された象徴的な事例として語り継がれています。

つまり、科学では物質の構造や人間の心理といったものに基づいて演繹的に仮説を構築していたのに対し、データマイニングでは大量のデータから帰納的に仮説を構築します。仮説の検証の手法は両者で違いはないと思われます。

では、「大容量データから有効なビジネスパターンを発見する」ことはAIの導入効果たり得るのでしょうか。

この疑問に一石を投じたのが、統計モデリングの「解釈」を価値にする営為は斜陽なんじゃね?という話です。

さて,この記事におけ概念をそれなりに定義しておきます. すなわち,主要な統計モデルと,その「説明」,統計モデルで得られた結果の「解釈」を以下のように定義します.

  • 統計モデルは「データ」を用いて何らかの結果を返す構造である
  • 統計モデルによる「説明」とは,データの特徴を何らかの指標(平均の差,回帰係数,あるいはp値など)によって見出すこと
  • 統計モデルで得られた結果の「解釈」とは,統計モデルによる「説明」がどのようなメカニズムでもたらされたかを,統計モデルの外の情報を含めて推論すること

例えばt検定の例を挙げます2.A群とB群との間に差があるかどうかを「説明」します.そして差があった,または差があるとは言えなかった3という「説明」に対して「なぜこの結果が得られたのか」ということを想像や推論で補完する,というプロセスを「解釈」と呼ぶことにしよう,という方針です.

(中略)

タイトルの通り「統計モデルによる『解釈』を"メインの"価値にする」という営為は,個人的には価値があるとはいえない将来性のある行動とはいえないと考えています.

根拠は「『解釈』の妥当性を客観的・定量的に評価できない」ことが大きいです. (中略) こうした正しいかどうかを評価できない「解釈」を価値にしたモデリングは以下の

  • 丁寧に計画されていないデータ分析をしても何かしら「意味があるように」見せられる
  • 顧客の曖昧な課題に曖昧なまま答えられる

という分析側に都合が良いことはある一方

  • アドホックな解析しかできない(≒ 継続的な収益源とならない)
  • 顧客の課題を改善する意思決定を,本当にもたらすかどうかを評価できない
  • 曖昧な顧客の課題が明らかにならないままクローズする

という都合の悪さがあり,解釈ワークに時間を割くわりにはコスパが良くないというわけです.

一言でまとめると、「予測や分類のメカニズムをデータ外の情報を用いて推測しても、正しさが証明できないので、価値たり得ないのでは?」ということです。

科学をやっていた身としては、メカニズムの解明のためにデータマイニングで仮説を構築して、仮説を検証できるデータを集めて検証して、また新たな仮説を構築して、と考察を深めていけばいいのではないかと思うのですが、私たちがいま取り組んでいるのはビジネスです。ビジネスでは予算も時間もないので仮説に対して何度も検証していられません。しかも上司からは早く結論がほしいと催促されます。結局、データマイニングで構築した仮説は検証されることはないでしょう。したがって、「統計モデルによる『解釈』を"メインの"価値にする」ことに否定的であることは理解できます。

ただ、そもそもビジネスの判断や予測なんて必ず当たるなんてものではありません。経営者にとっては、少しでも経営の判断材料になるなら、という思いで『解釈』を価値と感じることはあると思います。 あとは、往々にして人はデータでは動かないので、データの解釈を以て「納得感」を持ってもらうというのにも使えるのかなと思います。

ちなみに『説明』を越えて『解釈』を売りにしていると思わしきサービス・技術もいくつか見受けられます。

ただやっぱり、現状のビジネスでは、データマイニングは「サイエンスではない」と思います。再び、マーケターのためのデータマイニング講座:第1章 CRMとデータマイニングの必要性 (2/2)から引用して終わりにしたいと思います。

データマイニングは分析スキルが必要とされない手法である  こう断言するのは間違いですが、データマイニングの目的をビジネスプラクティスの向上と考えれば、方法論より結果が重要となるのは事実です。極言すれば、どんなに高度なアルゴリズムを駆使しようが、ビジネスにおいてアクション可能な有意義な結果が出なければマイニングを行う価値はありません。

 その意味においてはITや分析のスキルよりもビジネスセンスに依存する部分が大きいでしょう。分析結果を統計的観点から評価するにはかなりの知識が要求されますが、ビジネスの理解が十分なら、現実と照らし合わせたうえでの評価が可能です。データマイニングツールには最先端の高度なアルゴリズムが搭載されていますが、最良の結果を最短で得るためにはアルゴリズムでなくビジネスの知識がより重要で、ツールにはこのユーザーの知見を分析に反映しやすいデザインが施されていますので、スキルの要らない手法という位置付けが与えられているのもうなずけます。

おわりに

この記事では法人向けAIサービスの導入効果について調べたことをまとめました。

願わくばデータドリブン文化が醸成されて、データマイニングで構築した仮説を積極的に検証するのが当たり前のことになりますように。


  1. 松尾豊,『第1回:人工知能の概要とディープラーニングの意義』,http://ymatsuo.com/DL.pdf

  2. 最適化アルゴリズム教師なし学習と言っていいのでしょうか。この分類はill-definedな気がするので、何か分類方法があると嬉しいです。