動径方向の運動量演算子

空間3次元の量子力学を考える。直交座標$(x,y,z)$で量子力学を定義して、球座標$(r,\theta,\phi)$に変換しよう。
体積要素は$dxdydz = r^2 \sin \theta drd\theta d\varphi$である。

このときの動径方向の演算子について考えてみる。
動径方向の運動量演算子は次のPDF(http://hb3.seikyou.ne.jp/home/E-Yama/Undoryo_Enzansi.PDF)に説明されているように次のように定義される。
\begin{align}
\hat p_r = \frac{1}{2} \left( \frac{\hat {\mathbb r}\cdot \hat{\mathbb p} + \hat {\mathbb p}\cdot \hat{\mathbb r}}{r} \right)
\end{align}
ここで$\hat{\mathbb r}=(\hat x, \hat y, \hat z), \hat{\mathbb p}=(\hat p_x, \hat p_y, \hat p_z)$である。
演算子微分表現を経由することで動径方向の運動量演算子を求められる。[猪木 慶治, 川合 光 (1994)『量子力学1 (KS物理専門書)』講談社]
\begin{align}
\hat p_r = \frac{\hbar}{i}\frac{1}{r}\frac{\partial}{\partial r}r
\end{align}
この演算子は正準交換関係という代数関係を満たす。
\begin{align}
[\hat r, \hat p_r] = i \hbar
\end{align}

この演算子がエルミートであるか確かめよう。微分表現でのエルミートの定義は以下とする。
\begin{align}
\label{hermite}
\int dr d\theta d\varphi r^2 \sin \theta \phi^\ast ({\mathbb r}) \hat A \psi ({\mathbb r}) - \int dr d\theta d\varphi r^2 \sin \theta (\hat A \phi)^\ast ({\mathbb r}) \psi ({\mathbb r}) =0
\end{align}
これが演算子が作用する定義域の任意の元$\phi, \psi \in D(A)$すべてに対して成り立つ必要がある。

$\hat A = \hat p_r$のとき、(\ref{hermite})の右辺は次のようになる。
\begin{align}
4\pi r^2\phi^\ast \psi |_{r=\infty} - 4\pi r^2\phi^\ast \psi |_{r=0}
\end{align}
この条件は$r=0$と$r=\infty$の差で決まる条件であるが、今は$r$に動径という意味があり、もちろん$\phi = \psi$でも成り立つ必要があることを踏まえると、この式は、$\hat p_r$が作用する波動関数$\psi(r)$が固定端条件$r\psi(r)|_{r=\infty}=r\psi(r)|_{r=0}=0$を満たす必要があることを意味する。


====余談====
$r$が動径ではなく、半直線上の1次元量子力学である場合、上の式は次のようになる。
\begin{align} \phi^\ast \psi |_{r=\infty} - \phi^\ast \psi |_{r=0} \end{align}
この場合は、周期境界条件を入れることでも条件を満たすことができる。
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例えば、$\psi(r) =\phi(r)= \pi^{-1/2}\exp(-r)$を考えてみる。これは$r\in [0, \infty]$で有限で、2乗可積分である。
\begin{align}
\int dr d\theta d\varphi r^2 \sin \theta |\psi|^2 = 1
\end{align}
$r^2\phi^\ast \psi$は原点でも無限遠でも$0$になるので演算子はエルミートの条件を満たす。

次に$L^2$のうち微分可能な全ての元(稠密部分集合)に対しても条件を満たすか考える。動径方向の基底は次の形で表される。(http://www.th.phys.titech.ac.jp/~muto/lectures/QMII11/QMII11_chap17.pdf)
\begin{align}
f(r) \sim (\mathrm{polynomial \ of \ }r) \cdot \exp(-a r), \ a>0
\end{align}
つまり$f(r)$は$r \in [0, \infty]$で有限で、$rf(r)$は原点と無限遠で$0$になる。関数をこの基底で展開すれば、各項で部分積分できるので、結局$\hat p_r$は$L^2$のうち微分可能な全ての元(稠密部分集合)上でエルミートとなる。


$\hat A = \hat p_r^2$のとき、(\ref{hermite})の右辺は次のようになる。
\begin{align}
4\pi \partial_r(r^2\phi^\ast \psi )|_{r=\infty} - 4\pi \partial_r(r^2\phi^\ast \psi )|_{r=0} = 0
\end{align}
$r^2 \phi^\ast \psi \sim r^2 (\mathrm{polynomial \ of \ }r) \cdot \exp(-a r) $となるので、微分は原点と無限遠で$0$になる。$\hat p_r^2$もまた$L^2$のうち微分可能な全ての元(稠密部分集合)上でエルミートである。


以上の結果であるが、上で言う物理の"エルミート"は関数解析においても"エルミート"の意味となる。演算子ヒルベルト空間の稠密部分、すなわち基底に対して作用できるとき、対称であるという。さらに、演算子がObservableであるための必要条件は、演算子が"自己共役"であることである(量子力学の数学的定式化 - Wikipedia)。
演算子$\hat T$が自己共役であるとは、$(\hat T \phi, \psi) = (\phi, \chi)$なる$\chi$が存在し$\chi = \hat T^\dagger v$と書いたとき、$\hat T$と$\hat T^\dagger$の定義域が一致するときを言う。一般に、対称だが自己共役でない演算子を構成することは難問だが、境界条件を持つ微分作用素を適当な境界条件のもとで考えることにより与えられる(http://www.math.nagoya-u.ac.jp/~noby/pdf/fana/10/fana10_7.pdf)。

====正しいか確認中====
今の例だと$\hat p_r$の定義域は$r\phi(r)|_{r=\infty}=r\phi(r)|_{r=0}=0$を満たす$\phi(r)$である。$\psi$と$\chi$を次のように定義する。
\begin{align}
\psi(r) = r^{-1}\exp(-r/2)
\end{align}
\begin{align}
\chi(r) =-\frac{1}{2}\frac{\hbar}{i} r^{-1}\exp(-r/2)
\end{align}
すると、$r\psi(r)|_{r=0}=1$なので、$\hat p_r^\dagger$の定義域は$r\psi(r)|_{r=0}=0$に収まらない。したがって定義域が異なるので、$\hat p_r$は自己共役ではない。よって$\hat p_r$はObservableではない。
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====メモ====
$\psi = (2\pi)^{-1/2}r^{-1} \exp(-r)$を考えてみる。これは$r\in [0, \infty]$で有限で、2乗可積分である。
$r^2 \psi^\ast \psi = (2\pi)^{-1} \exp (-2r)$で無限遠では$0$だが、原点では有限になる。$\psi = (2\pi)^{-1/2}r^{-1} \exp(-r)$は$L^2$の元だが、これを$\hat p_r$の定義域に含めると$\hat p_r$はエルミートにならない。一方で$L^2$の元は基底で展開できるはずである。これって矛盾してない?そもそも$\psi = (2\pi)^{-1/2}r^{-1} \exp(-r)$は基底で展開できるのか?
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