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徒然なるままにQM

ただのメモ帳

QETとBHとエントロピー

物理

QET(量子エネルギーテレポーテーション)を非常に簡単に説明する。登場人物はAliceとBobである。

Aliceは何らかの測定によって系にエネルギーを注入する。このとき得られた測定結果をBobに古典通信で送信する。

Bobは受信した結果をもとに系にユニタリ変換を施すことで系から(Aliceが注入したエネルギーを担保に)エネルギーを取り出すことができる。

古典通信を光ファイバーなどで行えばほとんど光速でエネルギーを送ることができたことになる。これは熱拡散などと比べると十分速い伝達と考えられるのでまさに“テレポート”なのである。

系の全体のエネルギー総和はもちろん正であるが、エネルギー密度は局所的には負の値をとれるので、Bobは正エネルギーを系から取り出すと同時に負のエネルギー波束を作り出す。この負のエネルギーとAliceが与えた正のエネルギーが打ち消しあってエネルギー総和は正になる。

 

QETについては次のブログなども参考になる。

blogs.yahoo.co.jp

 

より詳しくは次の参考書を読んでいただきたい。

 

SGCライブラリ 103
臨時別冊・数理科学2014年1月
「量子情報と時空の物理」
~ 量子情報物理学入門 ~
堀田昌寛(東北大学助教) 著

f:id:ground0state:20160504233620j:plain

株式会社サイエンス社 株式会社新世社 株式会社数理工学社

 

上記の参考書の9章でQETについて解説されている。特に9章の最後にはQETを応用してBHからエネルギーを取り出す過程が解説されている。このときのエントロピーの変化を考えてみたい。

 

通常のBHの蒸発過程では、BHのエントロピーの減少分はホーキング輻射の熱力学的エントロピーに変化し、全体のエントロピーは保存していると考えられる。

 

一方でQETの場合はAliceが注入したエネルギーでBHが形成され、Bobがユニタリ操作でエネルギーを取り出すのと同時に負のエネルギー波束をBHに打ち込みBHが小さくなる。

f:id:ground0state:20160504234035p:plain

株式会社サイエンス社 株式会社新世社 株式会社数理工学社p.163より引用)

 

このときBobが取り出すエネルギーは熱的ではないのでエントロピーは増加しないはずである。しかしBHのホライズンの面積は減少しているのでBHのエントロピーは減少している。このエントロピーはどこに行ったのか?

 

これはメモリ系を含めて考えれば解決されると思われる。

参考書に則ってAliceは2進数のNビット列の測定をしたとする。メモリの記録ではエントロピーの変化は起こらない。このビット列をBobに送信してBobもビット列を記録する。このときもエントロピーは変化しない。

しかし、ホーキング輻射と同じ状況にするにはBobのメモリをリセットする必要がある。このリセット操作には

N k_B T \log 2

の仕事が必要になる(疑問:この$T$はBobがエネルギーを取り出した後のBHの温度でよいのだろうか?)。

このとき

N k_B \log 2

エントロピー増加が伴う。

 

おそらくこのエントロピーがBHのエントロピー減少分を打ち消しあうのだと考えられる。

 

しかし、上の説明は完全ではない。ヘアーの問題があるからである。

BHは古典的にはヘアーを持たないのだが、量子論的にはヘアーを持ちうる。次の論文を参考にしていただきたい。

[0907.1378v3] Controlled Hawking Process by Quantum Energy Teleportation

テレポーテーション後にビット列の情報がホライズンの外の場の揺らぎに(永遠にではないが)残ることになる。したがってこの揺らぎもエントロピーに寄与すると考えると上記の考え方は完全ではないと思われる。(疑問:揺らぎが緩和するほど十分時間が経過したと考えれば上記の考え方でもよいか?)

 

また、情報を含めた熱力学第二法則はどうなっているのかというと、これが量子情報論の一般化された第二法則になるのである。これについてはまたいつか。

 

 

【追記】

ちなみにブラックホールエントロピーの減少分は

\Delta S_{bh}=4\pi k_B G N^2 E_B(2E_A-E_B)

である。一方でメモリの消去で増加するエントロピー

\Delta S_M=k_b N \log 2 \sim 0.7 k_B N

である。

まず$N$のオーダーが合っていない。したがって等号が成り立つとは見込めない。これは真空の揺らぎを測定する測定器の分解能が低いからではないだろうか?

第二法則としては

tex:\Delta S_{bh}\leq \Delta S_M

が成り立てば矛盾はないはずである。これは$E_B$の上限を与える式だと読み替えていいのだろうか?

 

ああちゃんと研究したい。