動径方向の運動量演算子

空間3次元の量子力学を考える。直交座標$(x,y,z)$で量子力学を定義して、球座標$(r,\theta,\phi)$に変換しよう。
体積要素は$dxdydz = r^2 \sin \theta drd\theta d\varphi$である。

このときの動径方向の演算子について考えてみる。
動径方向の運動量演算子は次のPDF(http://hb3.seikyou.ne.jp/home/E-Yama/Undoryo_Enzansi.PDF)に説明されているように次のように定義される。
\begin{align}
\hat p_r = \frac{1}{2} \left( \frac{\hat {\mathbb r}\cdot \hat{\mathbb p} + \hat {\mathbb p}\cdot \hat{\mathbb r}}{r} \right)
\end{align}
ここで$\hat{\mathbb r}=(\hat x, \hat y, \hat z), \hat{\mathbb p}=(\hat p_x, \hat p_y, \hat p_z)$である。
演算子微分表現を経由することで動径方向の運動量演算子を求められる。[猪木 慶治, 川合 光 (1994)『量子力学1 (KS物理専門書)』講談社]
\begin{align}
\hat p_r = \frac{\hbar}{i}\frac{1}{r}\frac{\partial}{\partial r}r
\end{align}
この演算子は正準交換関係という代数関係を満たす。
\begin{align}
[\hat r, \hat p_r] = i \hbar
\end{align}

この演算子がエルミートであるか確かめよう。微分表現でのエルミートの定義は以下とする。
\begin{align}
\label{hermite}
\int dr d\theta d\varphi r^2 \sin \theta \phi^\ast ({\mathbb r}) \hat A \psi ({\mathbb r}) - \int dr d\theta d\varphi r^2 \sin \theta (\hat A \phi)^\ast ({\mathbb r}) \psi ({\mathbb r}) =0
\end{align}
これが演算子が作用する定義域の任意の元$\phi, \psi \in D(A)$すべてに対して成り立つ必要がある。

$\hat A = \hat p_r$のとき、(\ref{hermite})の右辺は次のようになる。
\begin{align}
4\pi r^2\phi^\ast \psi |_{r=\infty} - 4\pi r^2\phi^\ast \psi |_{r=0}
\end{align}
この条件は$r=0$と$r=\infty$の差で決まる条件であるが、今は$r$に動径という意味があり、もちろん$\phi = \psi$でも成り立つ必要があることを踏まえると、この式は、$\hat p_r$が作用する波動関数$\psi(r)$が固定端条件$r\psi(r)|_{r=\infty}=r\psi(r)|_{r=0}=0$を満たす必要があることを意味する。


====余談====
$r$が動径ではなく、半直線上の1次元量子力学である場合、上の式は次のようになる。
\begin{align} \phi^\ast \psi |_{r=\infty} - \phi^\ast \psi |_{r=0} \end{align}
この場合は、周期境界条件を入れることでも条件を満たすことができる。
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例えば、$\psi(r) =\phi(r)= \pi^{-1/2}\exp(-r)$を考えてみる。これは$r\in [0, \infty]$で有限で、2乗可積分である。
\begin{align}
\int dr d\theta d\varphi r^2 \sin \theta |\psi|^2 = 1
\end{align}
$r^2\phi^\ast \psi$は原点でも無限遠でも$0$になるので演算子はエルミートの条件を満たす。

次に$L^2$のうち微分可能な全ての元(稠密部分集合)に対しても条件を満たすか考える。動径方向の基底は次の形で表される。(http://www.th.phys.titech.ac.jp/~muto/lectures/QMII11/QMII11_chap17.pdf)
\begin{align}
f(r) \sim (\mathrm{polynomial \ of \ }r) \cdot \exp(-a r), \ a>0
\end{align}
つまり$f(r)$は$r \in [0, \infty]$で有限で、$rf(r)$は原点と無限遠で$0$になる。関数をこの基底で展開すれば、各項で部分積分できるので、結局$\hat p_r$は$L^2$のうち微分可能な全ての元(稠密部分集合)上でエルミートとなる。


$\hat A = \hat p_r^2$のとき、(\ref{hermite})の右辺は次のようになる。
\begin{align}
4\pi \partial_r(r^2\phi^\ast \psi )|_{r=\infty} - 4\pi \partial_r(r^2\phi^\ast \psi )|_{r=0} = 0
\end{align}
$r^2 \phi^\ast \psi \sim r^2 (\mathrm{polynomial \ of \ }r) \cdot \exp(-a r) $となるので、微分は原点と無限遠で$0$になる。$\hat p_r^2$もまた$L^2$のうち微分可能な全ての元(稠密部分集合)上でエルミートである。


以上の結果であるが、上で言う物理の"エルミート"は関数解析においても"エルミート"の意味となる。演算子ヒルベルト空間の稠密部分、すなわち基底に対して作用できるとき、対称であるという。さらに、演算子がObservableであるための必要条件は、演算子が"自己共役"であることである(量子力学の数学的定式化 - Wikipedia)。
演算子$\hat T$が自己共役であるとは、$(\hat T \phi, \psi) = (\phi, \chi)$なる$\chi$が存在し$\chi = \hat T^\dagger v$と書いたとき、$\hat T$と$\hat T^\dagger$の定義域が一致するときを言う。一般に、対称だが自己共役でない演算子を構成することは難問だが、境界条件を持つ微分作用素を適当な境界条件のもとで考えることにより与えられる(http://www.math.nagoya-u.ac.jp/~noby/pdf/fana/10/fana10_7.pdf)。

====正しいか確認中====
今の例だと$\hat p_r$の定義域は$r\phi(r)|_{r=\infty}=r\phi(r)|_{r=0}=0$を満たす$\phi(r)$である。$\psi$と$\chi$を次のように定義する。
\begin{align}
\psi(r) = r^{-1}\exp(-r/2)
\end{align}
\begin{align}
\chi(r) =-\frac{1}{2}\frac{\hbar}{i} r^{-1}\exp(-r/2)
\end{align}
すると、$r\psi(r)|_{r=0}=1$なので、$\hat p_r^\dagger$の定義域は$r\psi(r)|_{r=0}=0$に収まらない。したがって定義域が異なるので、$\hat p_r$は自己共役ではない。よって$\hat p_r$はObservableではない。
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====メモ====
$\psi = (2\pi)^{-1/2}r^{-1} \exp(-r)$を考えてみる。これは$r\in [0, \infty]$で有限で、2乗可積分である。
$r^2 \psi^\ast \psi = (2\pi)^{-1} \exp (-2r)$で無限遠では$0$だが、原点では有限になる。$\psi = (2\pi)^{-1/2}r^{-1} \exp(-r)$は$L^2$の元だが、これを$\hat p_r$の定義域に含めると$\hat p_r$はエルミートにならない。一方で$L^2$の元は基底で展開できるはずである。これって矛盾してない?そもそも$\psi = (2\pi)^{-1/2}r^{-1} \exp(-r)$は基底で展開できるのか?
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等価原理の数学的意味

アインシュタイン相対性理論に要請した原理として等価原理がある。等価原理は例えば内山の教科書に次のように解説してある。


重力内の任意の任意の点をとりかこむ無限小の4次元領域を考えるとき、そこに特別な座標系を求め、これを基準にとるとき、この無限小領域内が無重力地帯となるようにすることが必ずできる。これを等価原理(principle of equivalence)という。
引用元:内山 龍雄 (2011年,第25刷)『相対性理論 (物理テキストシリーズ 8)』岩波書店 p.116-117

これを幾何学的に述べると次のようになる。

幾何学では、或る座標系を採るとき、1点Pにおける$\Gamma$がすべて0になる場合、この座標系はPにおいて測地的(geodesic)であるという。また、この座標系をPにおける測地座標系、あるいは測地系(system of geodesic coordinate)という。したがって等価原理幾何学的に言えば、任意の世界点で測地系を設けることが必ずできるということになる。
引用元:内山 龍雄 (2011年,第25刷)『相対性理論 (物理テキストシリーズ 8)』岩波書店 p.146-147

"$\Gamma$"レヴィ・チヴィタ接続のことで、"1点Pにおける$\Gamma$がすべて0になる"とは、接続$\Gamma^\lambda_{\mu\nu}$のすべての成分が点Pでゼロになることをいう。
\begin{align}
\Gamma^\lambda_{\mu \nu}(P)=0 
\end{align}

さて、では具体的にどのようにすれば点Pにおいて$\Gamma$をゼロにできるか。これについてはEMANさんのサイトに解説記事がある。

EMANの物理学・相対性理論・局所直線座標系

今、座標が$(x,g)$で張られているとする。点Pの座標を$c^\mu$とする。座標$(x,g)$から$(x',g')$への座標変換でレヴィ・チヴィタ接続は次のように変換される。 

\begin{align}
\Gamma_{\mu\nu}^{\lambda} = \frac{\partial x'^\alpha}{\partial x^\mu} \frac{\partial x'^\beta}{\partial x^\nu} \frac{\partial x^\lambda}{\partial x'^\gamma} \Gamma'^{\gamma}_{\alpha\beta} + \frac{\partial x^\lambda}{\partial x'^\rho} \frac{\partial^2 x'^\rho}{\partial x^\mu \partial x^\nu}  
\end{align}

これに次の座標変換を施すと、$\Gamma'$は点Pで$0$になる。

\begin{align}
x'^\mu = x^\mu + \frac{1}{2}\Gamma^\mu_{\alpha \beta}(P) (x-c)^\alpha (x-c)^\beta
\end{align}

これで点Pで無重力にすることができた。

 

さらに線形変換$x''^\mu = a^\mu_{ \ \ \nu} x'^\nu$を施した$\Gamma''$も点Pでゼロになる。これを利用して計量を変換しよう。$x'^\mu = (a^{-1})^\mu_{ \ \ \nu} x'^\nu=b^\mu_{\ \ \nu} x''^\nu$と書き直すと計量は次のように変換される。

\begin{align}
g''_{\mu\nu} = \frac{\partial x^\alpha}{\partial x'^\mu} \frac{\partial x^\beta}{\partial x'^\nu} g'_{\alpha\beta} = b^\alpha_{\ \ \mu}b^\beta_{\ \ \nu}g'_{\alpha\beta} = (B^{\top}G B)_{\mu\nu}
\end{align}

 ここで計量とテンソル$b$を行列とみなして表した。成分の対応は次のようになる。

\begin{align} G_{ij} = g_{ij} \end{align}

\begin{align} B_{ij} = b^i_{\ \ j}  \end{align}

 点Pでの値を考える。$G(P)$は対称行列なので直交行列$R$で対角化できる。

\begin{align} R^{\top} G(P) R = \Lambda \end{align}

 $\Lambda = \mathrm{diag}(-\lambda_0,\lambda_1,\lambda_2,\lambda_3)$である。

 

さらに$C=\mathrm{diag}(\lambda_0^{-1/2},\lambda_1^{-1/2},\lambda_2^{-1/2},\lambda_3^{-1/2})$を用いて単位行列に変換できる。

 \begin{align} C^{\top} R^{\top} G(P) R C =\mathrm{diag}(-1,1,1,1) \end{align}

 

よって$B=RC$とすれば計量$g''$は点Pで$\mathrm{diag}(-1,1,1,1)$となる。

以上の結果より、座標変換で点Pで$g=\mathrm{diag}(-1,1,1,1), \Gamma_{\mu \nu}^\lambda=0$とできる。

 

また、正規座標における計量のテイラー展開も同じことを表している。

 \begin{align} g_{\mu\nu} =\mathrm{diag}(-1,1,1,1)_{\mu\nu}-\frac{1}{3}R_{\mu\alpha\nu\beta}x^\alpha x^\beta +\mathcal O (x^3) \end{align}

引用元:酒井 隆(1992)『リーマン幾何学裳華房

 

さて、話題を変えよう。

リーマン幾何学での等価原理の数学的意味を見てきたわけだが、そもそもリーマン幾何学のどの時点で等価原理が導入されたのか考えてみる。

リーマン多様体の条件は2つあった。

  1. 計量条件:$\nabla_\rho g_{\mu\nu}=0$
  2. 捩率なし:$\Gamma_{\mu\nu}^\lambda = \Gamma_{\nu\mu}^\lambda$

一つ目の条件は

ベクトルの大きさは平行移動に対して不変である

引用元:内山 龍雄 (2011年,第25刷)『相対性理論 (物理テキストシリーズ 8)』岩波書店 p.144

 を表している。これはベクトルを平行移動したときに、ベクトルの大きさが時空の曲がりの効果以外で、変化しないことを要請している。これは物理を記述する上でもっともらしいと言えるだろう。

 

接続に関係する二つ目の条件を確認してみよう。リーマン多様体であることは仮定しないでおき、多様体に計量$g$と線形接続$\Omega$を導入する。共変微分は次のように定義される。

\begin{align} \nabla_\mu V^\nu= \partial_\mu V^\nu - \Omega^\nu_{\mu \lambda}V^\lambda \end{align}

座標が$(x,g)$で張られているとする。座標$(x,g)$から$(x',g')$への座標変換で接続は次のように変換される。 

\begin{align}
\Omega_{\mu\nu}^{\lambda} = \frac{\partial x'^\alpha}{\partial x^\mu} \frac{\partial x'^\beta}{\partial x^\nu} \frac{\partial x^\lambda}{\partial x'^\gamma} \Omega'^{\gamma}_{\alpha\beta} + \frac{\partial x^\lambda}{\partial x'^\rho} \frac{\partial^2 x'^\rho}{\partial x^\mu \partial x^\nu}  
\end{align}

 等価原理が成り立つか、次の座標変換をしてみよう。

\begin{align}
x'^\mu = x^\mu + \frac{1}{2}\Omega^\mu_{\alpha \beta}(P) (x-c)^\alpha (x-c)^\beta
\end{align} 

 すると点Pで次の式が成り立つ。

\begin{align}
\Omega_{\mu\nu}^{\lambda} (P) = \Omega'^{\lambda} _{\mu\nu}(P)  + \Omega_{(\mu\nu)}^{\lambda} (P)
\end{align} 

接続の反対称成分が残ってしまった。

 \begin{align}
\Omega'^{\lambda} _{\mu\nu}(P) = \Omega_{[\mu\nu]}^{\lambda} (P)
\end{align} 

 さらに座標変換してこの成分をゼロにできるだろうか?

座標変換での接続の変換を考えると、接続の反対称成分は次の変換をする。

\begin{align}
\Omega_{[\mu\nu]}^{\lambda} = \frac{\partial x'^\alpha}{\partial x^\mu} \frac{\partial x'^\beta}{\partial x^\nu} \frac{\partial x^\lambda}{\partial x'^\gamma} \Omega'^{\gamma}_{[\alpha\beta]} 
\end{align}

 これはテンソルの変換になっている。したがって、接続の反対称成分はテンソルである。

$\Omega$が計量条件を満たすとして、接続を分解する。

\begin{align}\Omega_{(\mu\nu)}^{\lambda} =\Gamma_{\mu\nu}^{\lambda} \end{align}

\begin{align}\Omega_{[\mu\nu]}^{\lambda} =T_{\mu\nu}^{\lambda}\end{align}

$T$を捩率という。捩率はテンソルなので、座標変換で$0$にできない。したがって、等価原理が成り立つためには捩率が全時空で$0$になることが必要である。

また、全時空で$T_{\mu\nu}^{\lambda}=0$が成り立つとき$\Gamma_{[\mu\nu]}^{\lambda}$はレヴィ・チヴィタ接続になる。

\begin{align}\Gamma_{\mu\nu}^{\lambda}=\frac{1}{2}g^{\lambda \rho}(\partial_\mu g_{\rho \nu} +\partial_\nu g_{\rho \mu} -\partial_\rho g_{\mu \nu}) \end{align}

以上の考察より、等価原理が成り立つためには$\Omega_{[\mu\nu]}^{\lambda} =\Omega_{[\nu\mu]}^{\lambda} $が必要十分であることがわかった。

 

よってリーマン多様体の条件のうち、一つ目は物理量が外力を受けない限り、影響を受けるのは時空の曲がりのみであることを要請し、二つ目は等価原理を要請している。 

ボソン弦のT-双対性

閉弦の質量スペクトル

\begin{align}
m^2 = \frac{n^2}{R^2}+\frac{w^2 R^2}{\alpha'^2}+\frac{2}{\alpha'}(N+\tilde N-2)
\end{align}
よりR\rightarrow 0でも軽くなる状態が存在する。これはKK粒子を持つ通常の場の理論には見られないことである。質量スペクトルは

\begin{align}
R' = \frac{\alpha'}{R} ,\quad n' = w,\quad w' =n
\end{align}
の変換の下で不変である。この変換を(8.2.7)に行うと

\begin{align}
\label{momentum_switch}
p'_L = p_L ,\quad p'_R = -p_R
\end{align}
となることがわかる。
そこで次のような場を定義する。

\begin{align}
X' = X_L(z)-X_R(\bar z)
\end{align}
この負の符号によって式(\ref{momentum_switch})が実現される。X'Xの定数部分は異なってしまうが、理論のスペクトルを決める\alpha_nなどはすべてX微分から構成されるので問題はない。したがってXX'の理論はパラメータの変換の下で等価になることがわかる。これをT-双対性という。

次に開弦のT-双対性を考える。
開弦の場合も

\begin{align}
X' = X_L(z)-X_R(\bar z)
\end{align}
の理論はスペクトルを変えない。この変換は弦の境界条件を変える効果がある。開弦っはz平面の上半平面で表された。z = x+iyとかくとy=0,\inftyが開弦の境界であった。これより

\begin{align}
\partial_x X =& \partial_x(X_L(x+iy)+X_R(x-iy))\\
=&\partial_y(-iX_L(x+iy)+iX_R(x-iy)) \\
=&-i\partial_y(X_L(x+iy)-X_R(x-iy))\\
=&-i\partial_y X'
\end{align}
となることがわかる。したがってT-双対変換は開弦の境界条件を変える。
さらに端点間の距離を求めてみよう。

\begin{align}
X'(\pi)-X'(0) =& \int dX' \\
=&\int dz \partial X'+d\bar z  \bar\partial X'\\
=&\int dz \partial X-d\bar z  \bar\partial X\\
=&2\pi \alpha' p\\
=&2\pi \alpha'\frac{l}{R}\\
=&2\pi lR'
\end{align}
ここで\partial X' = \partial X,\quad \bar\partial X' = -\bar \partial Xと運動量の定義(8.2.6)とKK運動量p=l/R,\quad l\in \mathbb zを用いた。これはT-双対な半径R' = \frac{\alpha'}{R}の円周に巻き付いていることを示している(他の次元の方向にはNeumann境界条件が課されているので、端点がくっついて閉じているわけではない)。
つまり、弦はコンパクト次元X'軸のX'=\mathrm{const}に端点をもつ。つまり、コンパクト化された時空間Xの中を泳いでいた開弦の理論は、X'=\mathrm(const)に端点を持つ開弦の理論と等価であるのだ。この弦の端点が乗っている物体こそがD-braneである(厳密にはコンパクト化された時空間Xも開弦が乗っていたわけだから最初からD-braneは存在していたのである。つまり、一方向をコンパクト化したD25-braneの理論のT-双対はD25-braneがコンパクト方向に潰れたD24-braneの理論になる)。

次に、コンパクト空間のゲージ場について考える。 U(1)ゲージ場は物理量に微分を通してしか現れないので、定数ゲージ場には普通意味がない。しかし、コンパクト空間の時は非自明な寄与をもたらす。
ゲージ場のコンパクト空間方向の積分\thetaとする。

\begin{align}
\theta = q\oint dX^{25}A_{25} = 2\pi R qA_{25}
\end{align}
よって qA_{25} = \frac{\theta}{2\pi R}とかける。ゲージ場があると正準運動量はp\rightarrow p-qAと変化する。U(1)ゲージ場と結合するのは、弦の端点であり、弦のカレント保存則よりそれぞれの端点の電荷は逆の符号を持つ。電荷1に規格化しよう。したがって運動量のシフトはp\rightarrow p-qA+qA=pとなり、不変である。
しかし、ブレーンが複数枚あるときは話が変わってくる。n枚のブレーンの理論を考える。これは無質量レベルではU(n)ゲージ理論である。定数ゲージ場はゲージ変換で対角化可能である。

\begin{align}
\theta_i = q\oint dX^{25}A_{25,ii} = 2\pi R qA_{25,ii}
\end{align}
とすると qA_{25,ii} = \frac{\theta_i}{2\pi R}となる。したがってChan-Paton因子が(ij)の弦の運動量はp\rightarrow p-qA_{ii}+qA_{jj}とシフトする。すると

\begin{align}
X'(\pi)-X'(0) =& \int dX' \\
=&2\pi \alpha' (p-qA_{ii}+qA_{jj})\\
=&2\pi \alpha'(\frac{l}{R} -\frac{\theta_i}{2\pi R}+\frac{\theta_j}{2\pi R})\\
=&(2\pi l - \theta_i+\theta_j) R'
\end{align}
となる。よってブレーンの位置が一枚一枚シフトされることがわかる。これはU(n)理論がU(1)^n理論に破れたことを意味している。実際質量スペクトルは

\begin{align}
m^2 = (2\pi l - \theta_i+\theta_j)^2R'^2+\frac{1}{\alpha'}(N-1)
\end{align}
となり、ゲージボソンN=1,\quad l=0はブレーン間の距離に比例した質量を持つ。これがWボソンに相当する。これはブレーン上の場の理論の観点からは、ポテンシャル[A_{25},A_{25}]^2の自発的破れに対応する。

トーラスコンパクト化

閉弦のトーラスコンパクト化を考える。まずは空間次元一つがコンパクト化されているとする。

\begin{align}
X(\sigma +2\pi)=X(\sigma)+2\pi R w,\quad w\in \mathbb Z
\end{align}
Rはコンパクト化の半径である。Xの全微分をコンパクト化方向に積分すると次のようになる。

\begin{align}
\oint dX =  X(\sigma +2\pi)-X(\sigma)=2\pi R w
\end{align}
一方で

\begin{align}
\oint dX = \oint( dz \partial X+d\bar z \bar \partial X)
\end{align}
とも書ける。ローラン展開(8.2.4)を代入して

\begin{align}
\oint dX = 2\pi\Big(\frac{\alpha '}{2}\Big)^{1/2}(\alpha_0-\tilde \alpha_0)
\end{align}
を得る。\bar zでは経路が反転することに注意。

一方で時空の並進のネーターカレントはj_a^\mu = i\partial_a X^\mu/\alpha'であり、空間積分

\begin{align}
p^\mu =& \frac{1}{\pi}\oint dx^a j_a^\mu \\
=& \frac{1}{\pi}\int d\sigma^2 \sqrt g \partial_a j^{a\mu} \\
=& \frac{1}{2\pi}\int dzd\bar z  \partial_a j^{a\mu} \\
=& -\frac{1}{2\pi i}\oint (j^{z\mu} d\bar z - j^{\bar z \mu} d z )\\
=&\frac{1}{2\pi \alpha'}\oint (dz \partial X^mu-d\bar z \bar \partial X^\mu)\\
=& (2\alpha')^{-1/2}(\alpha_0^\mu+\tilde \alpha_0^\mu)
\end{align}
となる(一般性のために\muを付けたが、今は\mu=25のみを考えている)。
非コンパクト次元では常に w =0なので\alpha_0^\mu=\tilde \alpha_0\muとなるが、コンパクト次元ではw\neq 0となりうるので一般に\alpha_0^\mu\neq \tilde \alpha_0\muである。

 X = X_L(z)+X_R(\bar z)と分離し、(2.4.4)に代入する。(8.2.4)の展開を代入すればVirasoro演算子(8.2.8)を得る。質量殻条件は(8.3.1)(8.3.2)となる。

\begin{align}
m^2 = \frac{n^2}{R^2}+\frac{w^2 R^2}{\alpha'^2}+\frac{2}{\alpha'}(N+\tilde N-2)
\end{align}

開弦と向き付けられてない弦の1ループグラフ

(7.4.1)以降を解説する。
向き付けられてない閉弦の1ループグラフを考える。経路積分\Omega = 1の状態のみを取り出す。分配関数は次のように書ける。

\begin{align}
Z =& \int^\infty_0 \frac{dt}{2t}\mathrm{Tr'}_c\Big(\frac{1+\Omega}{2}\exp[-2\pi t (L_0 + \tilde L_0)]\Big) \\
=& \int^\infty_0 \frac{dt}{4t}\mathrm{Tr'}_c\exp[-2\pi t (L_0 + \tilde L_0)]+\int^\infty_0 \frac{dt}{4t}\mathrm{Tr'}_c\Big(\Omega\exp[-2\pi t (L_0 + \tilde L_0)]\Big)
\end{align}
第一項がトーラスで第二項がクラインボトルを表している。これは次のようにしてわかる。
第一項は定義より明らか。第二項の\Omegaは終状態の空間方向の向きづけを反転させるので次の図のようになる。
f:id:ground0state:20161121211650p:plain:w200
これはまさにクラインボトルである。

向き付けられてない開弦の1ループグラフは円筒とメビウスの輪の和になる。

向き付けられていない弦

向き付けられていない弦の状態を定義する。これは世界面が向きづけられていない多様体になることを意味しない。世界面そのものは向きづけられた多様体として扱い、状態空間のレベルで向きの変換に対し不変な状態飲みを取り出してヒルベルト空間を構成する。
向きを変える変換を次のように定義する。閉弦に対して

\begin{align}
\Omega \hat X(\sigma^1) \Omega^{-1} = \hat X(2\pi - \sigma^1)
\end{align}
となる。開弦の時は2\pi\piに置き換える。閉弦と開弦の展開は次のように書けた。

\begin{align}
X^\mu = x^\mu-i\frac{\alpha'}{2}p^\mu\ln|z|^2+i(\frac{\alpha'}{2})^{1/2}\sum_{m=-\infty,m\neq 0}^\infty \frac{1}{m}(\frac{\alpha^\mu_m}{z^m}+\frac{\tilde \alpha^\mu_m}{\bar z^m})\\
X^\mu = x^\mu-i\alpha'p^\mu\ln|z|^2+i(\frac{\alpha'}{2})^{1/2}\sum_{m=-\infty,m\neq 0}^\infty \frac{\alpha^\mu_m}{m}(\frac{1}{z^m}+\frac{1}{\bar z^m})
\end{align}
ただし、座標は

\begin{align}
z=\exp[-iw]=\exp[-i(\sigma^1+i\sigma^2)]
\end{align}
である。
向きを変える変換は、閉弦ではz\leftrightarrow \bar z、開弦ではz\leftrightarrow -\bar zとなるものなので演算子としてはそれぞれ

\begin{align}
\Omega \alpha^\mu_m \Omega^{-1}= \tilde \alpha^\mu_m,\quad \Omega \alpha^\mu_m \Omega^{-1} = (-1)^m \alpha^\mu_m
\end{align}
となる。

以下では開弦の状態について考えよう(閉弦の場合も同様にして考えられる)。
\Omegaの状態に対する作用は

\begin{align}
\Omega|N;k> = (-1)^N|N;k>
\end{align}
となる。したがってレベルが偶数の状態のみが向き付けられていない弦の状態になる。質量スペクトルは

\begin{align}
m^2=\frac{1}{\alpha'}(N-1)
\end{align}
であるから、この理論には無質量状態は存在しない。

弦理論では無質量状態が主役になるので、無質量状態が存在するような理論を考えたい。
Chan-Paton因子を考慮する。

\begin{align}
\Omega|N;k;ij> = (-1)^N|N;k;ji>
\end{align}
元の状態|N;k;ij>U(n)の表現であったがU(n)リー代数を対称と反対称のものに分けることで

\begin{align}
\Omega|N;k;ij> = (-1)^N|N;k;ji>= (-1)^N(-1)^p|N;k;ij>
\end{align}
となる。pは対称に対して0となり、pは反対称に対して1となる。無質量状態の固有値1になるとき、理論は反対称の部分リー代数で生成されるSO(n)のゲージ群を持つ。

以上の\Omegaの作用に加えてU(n)も作用させることでより複雑な変換を構成できる。

\begin{align}
\Omega_{\gamma}|N;k;ij> = (-1)^N\gamma_{jj'}(\gamma^{-1})_{i'i}|N;k;j'i>
\end{align}
まず恒等的に\Omega^2_{\gamma}=1が成り立つべきであることを説明する。\Omega^2_{\gamma}を状態に作用させると

\begin{align}
\Omega^2_{\gamma}|N;k;ij> = ((\gamma^{\top})^{-1}\gamma)_{ii'}(\gamma(\gamma^\top)^{-1})_{jj'}  |N;k;i'j'>
\end{align}
となる。これは振動子の状態によらないので\Omega^2_{\gamma}は群の状態空間のみに作用する。表現基底の行列を$\lambda^a_{ij}$とすると\Omega^2_{\gamma}の作用は次のようになる。

\begin{align}
\lambda' = (\gamma^{\top})^{-1}\gamma\lambda\gamma^{-1}\gamma^\top 
\end{align}
ここで状態|a>\Omega_{\gamma}不変であると仮定しよう。すると当然\Omega^2_{\gamma}不変でもある。しかし、\Omega^2_{\gamma}は振動子の状態空間には作用しないので、群の表現に対する作用のみで固有値1にならなければならない。したがって恒等的に\Omega^2_{\gamma}=1が成り立たなければならない。さらに\lambdaが群を生成すると仮定し、完全系をなすとすればシューアの補題より(\gamma^{\top})^{-1}\gamma =\pm 1となる。これより

\begin{align}
\gamma^\top = \pm \gamma
\end{align}
となる。\gamma = \mathbb 1とすれば無質量状態はSO(n)理論になる。一方n=2kに対し

\begin{align}
\gamma =   \left(
    \begin{array}{cc}
      0 & I_{k\times k}  \\
      -I_{k\times k} & 0 
    \end{array}
  \right)
\end{align}
として、無質量状態が固有値1になるには

\begin{align}
\gamma \lambda^\top \gamma^{-1} = -\lambda
\end{align}
となる\lambdaを選べばよい。この\lambdaが生成する群はシンプレクティック群Sp(2k)を生成する。

以上より無質量状態の理論は
向きづけられているならばU(n)
向きづけられていないならばSO(n)もしくはSp(n=2k)
のゲージ群をもつゲージ理論になる。